[新聞] 産経新聞 フリーターの老後(下)年金不足分の調達


2006年10月18日 産経新聞
フリーターの老後(下)年金不足分の調達 についてコメントしています。
http://www.sankei.co.jp/yuyulife/lifeplan/200610/lfp061018001.htm


 ■難しい運用と継続
 正社員にならず、公的年金にも頼らず、フリーターを続けながら老後の生活設計をすることは、できるのでしょうか。ファイナンシャルプランナーが示した分析の結果は、相当に厳しいものでした。最終回では、増え続けるフリーターを日本の社会がどう受け止めていくべきかを探ります。(中川真)
 老後が懸念されるフリーター。しかも、国民年金に加入していたとしても、老後に受け取れる年金は月額7万円弱。本来、自営業を想定して設定されたこの額では、老後に生活できないのが現実だ。
 では、退職金のないフリーターが60歳になったとき、自助努力で1000万円以上の貯金を持つことはできるのだろうか。
 フリーターは生涯賃金で「正社員と2億円以上の格差が生じる」と指摘するファイナンシャルプランナーの山崎俊輔さん(33)は、「毎月1万5000円の貯金を欠かさず続けられれば、35年間で約1112万円に育ちます」と話す。1112万円は、7万円弱の公的年金に月10万円ずつ上乗せして、約9年もつ額だ。
 しかし、フリーターにとって大きなハードルが2つある。1つは運用。山崎さんは試算で年利回りを、国が年金を運用する際に掲げる目標収益率(3・37%)に合わせ、3%と想定した。
 国は、国民から約140兆円の年金保険料を預かり、主に「年金積立金管理運用独立行政法人」を通して、信託銀行や投資顧問会社などを活用し、国内外の株式、債券などに分散・長期投資している。それでも、直近の今年度4~6月期は世界中で株価が下がり、運用資金を2・7%も目減りさせた。
 山崎さんは「専門知識や経験がない人は、株式を自分で売り買いせず、給料の一部を自動的に積み立て型の投資信託などに回す方がいい。何より継続が大事」と話す。
 フリーターにとって、もうひとつの壁は、毎月1万5000円の貯蓄を根気よく続けられるかだ。
 近畿地方で「コピーライターの卵」をしている30代の女性フリーターは毎月欠かさず国民年金の保険料を払い、貯金も続ける。周囲の人は「よくできるなあ」と驚くが、それには理由があるという。
 まず、1人暮らしで、生活費があまりかからない。さらに、住居は亡くなった両親が残した家だから、家賃もかからない。好条件が重ならないと、なかなか貯蓄は進まないようだ。
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 フリーターのまま老後の設計をするよりも、やはりフリーターを脱する方が現実的なよう。きっかけになるのは、何だろうか。
 厚生労働省所管の「労働政策研究・研修機構」でフリーターの動向や能力開発を研究する小杉礼子・統括研究員は「“できちゃった結婚”や肉体労働の疲れから、フリーター生活にピリオドを打つケースが多い」という。
 小杉さんは「20代後半のフリーターは、置かれた状況に“切迫感”がない。だが、急に養うべき家族ができたり、自分の体力に限界を感じるようになると、現実を直視する」と話す。生活環境や体力の激変で、やっと、条件が良くなくても安定性がある正社員の道を求めるという。
 では、結婚を促せば、フリーター層は減少するかというと、それも難しそう。小杉さんは「フリーターの女性は伝統的な考え方を大切にする人が多いから、不安定な男性フリーターを好まず、正社員と結婚したい。ところが、フリーターの女性と正社員の男性の出合いは案外少なく、結局、男女ともフリーターは縁遠くなる」としたうえで、「『フリーター歴が3年以上』『学歴が低い』『25歳以上』の3つがそろうと、なかなかフリーターから抜けられず、そうなると、あきらめてしまって能力開発などの施策にも乗ってこなくなる」と現状を憂える。
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 国全体にとっても、フリーター問題は無視できない。
 昨日、この欄で触れたような、厚生年金の適用範囲拡大の案が出てくる背景には、公的年金の薄いフリーターがこのまま高齢化し、いずれ国の社会保障負担が増えることへの不安がある。
 国民年金の納付率も全体で6割程度に過ぎない。フリーターの未納が多いとみられることから、「国民皆年金は崩壊している」(連合の小島茂生活福祉局長)と、現行制度への不信感も高まる一方だ。政府・与党内でも、未納を減らす観点から「消費税を引き上げ、国民年金の財源にすべきだ」との主張は増えており、来年夏の参院選以降、焦点になりそうだ。
 正社員を前提とした制度を抜本的に見直し、フリーターや未納付層も取り込めるように、年金を再構築しないと、就職の機会を逃したフリーターらが備えなきまま老後に向かうことになる。
(2006/10/18)

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