(無署名記事)
DCプランナーメールマガジンにコラムを提供しています。
事業主に問われる運用商品の選択眼
──────────────────────────────────
5月11日の日経金融新聞によると、DCで採用されている投資信託の実績に
大きな差が出始めているようです。格付投資情報センターの調べによると、
2002~2004年度にかけての運用実績を見ると、もっとも高かった投資信託
(48.7%)ともっとも低い投資信託(-9.4%)の差は58ポイントにもなると
のことです(アクティブ型日本株投信の場合)。もちろん、同じアセットクラ
ス(国内株式等)で運用する投資信託を比べても、投資対象としている市場の
環境や投資手法・投資方針の違いなどにより投資信託の値動きは大きく異なり
ますので、一概に比較することはできませんが、運用実績に大きな格差が生じ
ていることはわかります。
また、長期におよぶ資産形成においては、コストの差が最終的な運用実績を
大きく左右することも見逃せません。同じパフォーマンスを示した2つの投資
信託があっても、信託報酬が0.5%異なれば、当然のことながら最終的な手取
りの実績は0.5%違ってきます。年率にしてわずかな違いも30年以上の長期に
わたって積み重なれば、大きな違いになってきます。例えば、信託報酬控除後
の運用実績が年率4.0%の投資信託を30年間継続して保有すれば、初期元本は
324%まで増えますが、信託報酬が0.5%高かったため実質的な運用実績が年率
3.5%であった場合、初期元本は281%にしかなりません。最終的な運用実績は
40%以上差がつくことになります。
企業型DCにおいては、事業主が運営管理機関の提示した商品ラインナップ
から、自社の商品ラインナップを決定するため、加入者個人が自由に投資信託
を選択することはできません。よって、事業主の商品選択能力が、運用実績に
も大きな影響を及ぼすことになってきます(個人型DCにおいては、どの運営
管理機関を選択するかは加入者自身の任意です)。
この問題は投資信託に限りません。元本確保型の商品も金融機関が破綻する
リスクがあります(投資信託は金融機関の破綻からは保護される仕組みになっ
ています)。例えば、銀行等の提供する定期預金は、当該金融機関の破綻時に
は、その金融機関に預けている通常の預金と合算して1,000万円までしか保護
されません。したがって、元本確保型の商品ラインナップ(運用機関)の決定
も、加入者の資産保全に大きな影響を与える可能性があるわけです。
これらの懸案については、(1)パッシブ型の投資信託を必ずラインナップ
に含める、(2)国内・国外、株式・債券、それぞれのアセットクラスに投資
する投資信託をまんべんなくラインナップする、(3)可能な限り低コストの
商品選択を行う、(4)複数の金融機関の商品をラインナップする、などが、
基本的な対策となってくるでしょう。もちろん、企業型DCにおいては確定拠
出年金法第43条の規定(事業主の行為準則)により、加入者の利益を優先せず
に、過去の取引関係などで運営管理機関を選択したり、商品選定を行うことが
禁じられています。今後はさらに踏み込んで、商品ラインナップの「質」を見
極める選択眼も制度を実施する側に問われることになりそうです。
※レポートの詳細は格付投資情報センター発行「年金情報 No.382」で詳しく
紹介されています。
<格付投資情報センター:http://www.r-i.co.jp/nenkin/>