(無署名記事)
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パート労働者の厚生年金適用を機に見直す雇用形態のあり方
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来年の公的年金改正に合わせ、パート労働者にも厚生年金適用の範囲を拡大
する動きが強まっています。現行ではパート労働者の労働時間が正社員の4分
の3未満なら厚生年金に加入する必要はないとしています。週30時間がその目
安となりますが、これを週20時間まで引き下げ、厚生年金の加入者層を一気に
拡大しようということです。
雇用されている人口はおよそ5,000万人といわれていますが、そのうち正規従
業員(いわゆる正社員)は3,500万人に過ぎず、パート労働者やアルバイト、契
約社員、派遣社員などの非正規の従業員は1,500万人、割合にして30%にも達し
ています。正社員の減少傾向により厚生年金保険料収入も頭打ちになっており、
こうした雇用形態の層は保険料の財源確保の面からも無視できなくなっていま
す。
一般に、パート労働者の多くは専業主婦です。国民年金の第3号被保険者で
ある専業主婦が、家庭の第2の収入源となり教育費や住宅ローンなどの負担を
軽減する役割を担ってきました。彼女ら自身は国民年金保険料を納めていませ
ん。仮に厚生年金の適用を受けると、賃金から6.79%を引かれることになり、
同じ時給、同じ時間働いても手取りがダウンすることになります。配偶者控除
の適用除外を避けて、勤務時間を抑える傾向は以前からありましたが、厚生年
金の適用を避けるため勤務時間を抑える動きも出るのではと言われています。
一方、企業にとっても厚生年金保険料の事業主負担は重いものです。今まで
であれば、本人に支払う賃金のみを人件費として考えればよかったものが、賃
金の6.79%を別途支払わなければならないわけで、人件費はその分膨張するこ
とになります。パート労働者の低い賃金コストに助けられながら厳しい利益率
競争にさらされている業種においては、経営に深刻なダメージを与えることに
なります。新規採用者についてはその分時給を下げる手もありますが、すでに
働いているパート労働者の時給を下げるのは容易ではありません。
しかし、厚生年金の適用範囲拡大は、単なる費用負担の問題ではありません。
雇用形態のあり方を考え直すきっかけでもあります。今までも「正社員とパー
ト労働者が同じ職場で同じ仕事をしているのになぜ賃金格差があるのか」とい
った議論がなされてきましたが、これを機に正社員と非正規従業員の間の責任
と報酬の関係を明確にしていくことが求められるでしょう。
ある流通系の企業ではパート労働者でも優秀な人材であれば一定の責任を与
える一方、勤務時間や時給も引き上げ、社会保険も適用する取り組みを図って
います。年収が200~300万円にもなれば厚生年金を適用したことによる手取り
減はたいした問題ではないということです。一方で単純労働力としてのパート
については明確に区分し、1日に4時間以上働かせず、多くのパート労働者を
回転させるようにしているといいます。
パート労働者に対するこうした取組みは、正社員に対しても大きな刺激とな
ります。パート労働者に売り場を任せるような職場では、当然正社員はそれ以
上の役割と責任が求められます。経営認識のない正社員は、パート労働者と同
じ待遇になっても文句は言えないという危機意識が高まっていくかもしれませ
ん。
先ほどご紹介したとおり、すでに30%もの雇用者はパート労働者等の非正規
従業員にシフトしています。今後ともこの傾向は続くでしょう。厚生年金適用
拡大の問題は、単なる手取り減、企業負担増の問題にのみ矮小化するのではな
く、企業の将来的な人事戦略の中に位置づけて考えていく必要があります。