(無署名記事)
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退職給付制度の再構築に影響を及ぼす厚生年金保険料の引上げ
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企業において退職給付制度の再構築が喫緊の課題として意識の高まりを見せ
ていますが、本格的な議論に入るとき難問として必ず立ちはだかるのが公的年
金の問題です。
今後の保険料負担がどう推移するかが明らかにならなければ、企業の退職給
付に対する負担能力もはっきりしません。また、今後公的年金の給付水準がど
れほど維持されるのかが明確にならなければ、退職給付の老後資金に占める位
置づけもクリアにできません。
特に企業にとっては、社会保険料負担の上昇を見逃すわけにはいきません。
厚生年金保険料は労使折半を前提としていますから、会社は本人に払う給与と
は別枠で保険料負担分を捻出しなくてはなりません。現状ですと保険料率は13.
58%(会社負担は6.79%)ですから、仮に月収40万円の社員がいたとしたら、
会社としてはトータルで42.7万円をその従業員のために支払っているわけです
(その他、健康保険料や労働保険等を含めると実際にはもっと多く支払ってい
ます)。
今後、社会保険料がこれ以上上昇をすることになると、本人の賃金から引か
れる保険料負担が増える(つまり手取りが下がる)のはもちろんですが、本人
に支給する賃金とは別枠の会社負担分も増えることになります。
10月7日に日本商工会議所が発表した「公的年金改革に関する緊急アンケー
ト」では今後の保険料負担の上昇について中小企業の経営者はこれ以上企業負
担を増やす余力のないことが、はっきりと表れています。
( http://www.jcci.or.jp/nissyo/iken/031007nenkin_chosa.pdf )
厚生年金保険料率が将来的に20%(労使折半)に引上げられたとき、どのよ
うに対応するか、という設問について、以下のような回答がよせられています
(複数回答)。
・「賃金調整を検討」……53%
・「厚生年金保険の適用を受けない形態(労働派遣・請負・業務委託等)へ
の転換を検討」……52%
・「従業員数の調整を検討」……43%
賃金調整とは企業のトータルでの負担上昇を抑制するために実質的に賃下げ
等で対応せざるを得ないと言うことを示しています。保険料率の上昇は本人負
担増でもあり手取り金額を減らすわけですから、賃下げになれば二重に手取り
を減らす要因になります。また、雇用形態を派遣やパートに転換することで厚
生年金保険料の負担そのものを回避しようとする声もあがっています。どちら
も働く従業員にとっては大きな痛手であることは間違いありません。
企業の退職給付制度の再構築の現場においても、厚生年金保険料の引上げは
大きな問題となります。企業年金の不足金処理を考えている企業にとって、厚
生年金保険料の引上げは、いわば二重の負担ということになってしまいます。
もちろん、引き上げられた厚生年金保険料の負担分は、企業年金の不足金処理
にはまったく役立ちません。
とはいえ、退職給付制度の再構築を先送りしていても問題は解決しません。
将来にわたる社会保険料負担の増大という難題を意識し、今後の法改正の動向
を踏まえながらも、できるだけ速やかに退職給付制度の再構築に取り組むこと
が今、企業には求められています。