(無署名記事)
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■退職給与引当金の取り崩しが中小企業の退職給付制度再構築に拍車をかける?
退職給与引当金の取り崩しが、2003年4月以降に終了する事業年度から
始まります。一般的な3月決算であれば、2004年3月決算から対象です。
内部留保による退職給付資金の準備手法として損金処理が認められてきた退
職給与引当金制度でしたが、退職給付会計の導入などに伴い段階的な引当率の
引下げが行われてきました。さらに2002年8月1日施行の税制改正(法人
税法等の一部を改正する法律)により、廃止が決定しています。
資本金1億円未満の法人は10分の1ずつ10年間かけて取り崩し、資本金
1億円以上の法人は4年間で3・3・2・2の割合で取崩しとなります。取り
崩した引当金については益金処理されるので、課税対象となります。
中小企業においては、退職給与引当金は事業用地や機械等の形で資産化され
ているケースも多く、取崩しといってもキャッシュがあるわけではありません。
キャッシュはないのに課税されるのでは利益をもって税金の支払いに充てるほ
かありません。現下の経営環境にとって厳しい負担となります。
また、退職給付債務の問題もあります。中小企業では簡便法を用いて計算す
ることが認められていますが、もっともシンプルな計算でも自己都合要支給額
相当の準備は求められており、退職給付債務とは決して無縁ではありません。
退職給与引当金制度の廃止により、退職給付債務を充足する資産確保の取組み
がより重要性を増しています。
そこで考えられるのは、「外部積立て」による退職給付制度の再構築です。
外部積立てを行えば、退職給付債務に充当する年金資産の積立てが損金扱いで
行えますし、支払い準備の平準化にも役立ちます。企業年金制度の多くでは過
去勤務債務に相当する分を、制度の再構築にあたって、計画的に外部に積立て
移行することが認められています。
退職給付債務の対象外としたい場合、確定拠出年金制度や、中小企業退職金
共済などの制度の活用が考えられます。確定拠出年金では、退職一時金制度か
らの資産移換については、4~8の事業年度にわたって均等分割して移行する
ことができます。中小企業退職金共済では、10年分を限度として過去にさか
のぼって退職給付原資を移行することもできます。ちなみに過去10年分を移
行した場合の積立期間は5年です。
しかし、退職給付制度を外部積立てへ移行したとしても、移行のための原資
が必要になります。拠出する掛金の負担は企業にとって厳しい問題です。とは
いえ、内部留保による退職一時金制度を維持することは、退職給与引当金の取
崩しのたび、法人税が課税されるうえに退職金の給付責任は変わらないわけで、
デメリットが大きいことに変わりはありません。
税金負担を捻出した上での現状維持か、制度の再構築を踏まえた掛金負担の
道をとるか。退職給与引当金廃止の問題は、企業に悩ましい課題を突きつけて
きているのです。
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企業によっては、これを機に退職金制度の廃止を検討するところも少なくな
いようです。企業体力のないところでは、代替措置を実施する余裕もなく、文
字どおり退職金のカットとなるケースもあるといいます。
退職給付制度の再構築とDC導入の現場で、企業と接することの多いDCプ
ランナーにとって、退職給与引当金制度の廃止は、2003年度の大きなテー
マとなるに違いありません。
退職給付制度の再構築は、すべての規模の企業にとって不可避のテーマとな
っています。企業の思惑だけに左右されるのではなく、従業員の立場にも配慮
をした、中立・公正な立場からのアドバイスで、最善の選択肢を探る努力がD
Cプランナーに期待されているといえます。