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[メルマガ] 会社にとっては「確定拠出」?  適格退職年金から中小企業退職金共済への移行進む

(無署名記事)
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■会社にとっては「確定拠出」?
 適格退職年金から中小企業退職金共済への移行進む
 日本経済新聞の11月17日付け記事によると、適格退職年金を解散し、中
小企業退職金共済に移行した企業が、この7カ月ですでに543社に達してい
るとのことです。
 2002年4月1日をもって、10年間という移行経過期間に突入した適格
退職年金ですが、約7万4,000社が採用しており、約915万人の会社員
が対象となっています。
 もし、1年間の移行件数が1,000社に達したと仮定すれば、10年後に
は適格退職年金を採用していた企業のうち、1万社が中小企業退職金共済を採
用することになります。そのようなシナリオは考えられるのでしょうか?
    ■
 中小企業退職金共済は「中小企業者」のみが加入できる共済制度です。一般
業種では「従業員数300名以下あるいは資本金3億円以下」の要件を満たす
ことが求められます(卸売・小売・サービス業は基準が異なります。サービス
業では、従業員数100人以下あるいは資本金5千万円以下となります)。
 事業主は、勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部と退職金共
済契約を結び、毎月の掛金(定額)を金融機関に納付します。従業員が退職し
た際は、従業員が直接中小企業退職金共済に給付申請を行い、退職金を受け取
ります。
 会社が掛金の拠出を行えば、その後の資産管理・運用・給付は中小企業退職
金共済が受けもちます。拠出した掛金については、どのような理由であっても
事業主が受け取ることはできません。社外積立型の退職金制度といえます。約
41万4,000社、約265万人が加入している制度です。
 さて、この中小企業退職金共済ですが、「確定拠出型」の退職給付制度であ
るというのが、適格退職年金を導入した中小企業の経営者にとって魅力的に映
っているようです。また、制度の実施や掛金額について国が一部補助などを行
う支援制度が設けられている点も中小企業にとっては魅力でしょう。
 確かに、会社は掛金を拠出すればその後の運営や給付について責任を負わな
いわけですが、これは「会社にとっての確定拠出型」であることに留意する必
要があります。
 従業員の立場で考えてみると、以下のようなポイントにおいて確定拠出年金
と中小企業退職金共済は大きく異なります。
 1)加入1年未満の退職の場合は受給権が発生しません(企業にも返還され
ません)。また、2年未満の退職の場合は、掛金を下回る額が支給されます。
3年半までは掛金相当額しか支給されません。中途脱退より長期勤続を優遇す
る制度になっています。
 2)資産運用については、自身のニーズで行うことができないほか、給付利
回りは、今後の運用環境によって不透明な部分があります(2002年10月
分までの拠出分は3.0%、11月以降拠出分は1.0%となっています)。
 3)転職先が、中小企業退職金共済・特定業種退職金共済・通算制度を導入
した特定退職金共済を実施している場合のみ継続することができ、転職後のポ
ータビリティについてはあまり強くありません。
 4)退職後5年以内に一時金として受け取らなければならないため(60歳
以降の退職などに限り分割給付も可能)、退職一時金として手元に受け取るこ
とはできますが、老後の資産形成としてはクリアされてしまい不安を残すこと
になります。
 「会社にとっての確定拠出型」も従業員の立場から見れば、確定拠出年金と
は大きく異なることに注意する必要があります。
    ■
 実は、中小企業退職金共済の対象となる企業と、適格退職年金を採用する企
業は企業規模において、重なる部分が大きいのです。適格退職年金採用企業の
内訳を見ると、100名以下の企業が全体の約75%、300名以下で見ると
実に全体の約90%を占めているのです。これは中小企業退職金共済の対象で
もあります。
 基金型確定給付企業年金や確定拠出年金は、採用する事業主に制度運営の負
担や多くの責任を求めることになります。適格退職年金の導入企業にとって、
企業の負担解消という観点から中小企業退職金共済を導入する動機は少なくあ
りません。
 中小企業における退職給付制度の再構築については、これが正しいという選
択肢はありません。各企業の現場のニーズに基づき複数の制度を取捨選択・組
み合わせていくことが求められます。
 ただし、確定拠出年金を活用するにしろ、中小企業退職金共済を採用するに
しろ、それぞれの制度のメリット・デメリットを熟慮のうえ、選択する態度が
必要といえます。

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